今回はお知らせではないのですが、米は何故水に浸ける時間が必要なのかについて考察して見たいと思います。ちょっと長いです。
忙しい現代社会。水に浸ける時間を取らずに炊飯開始するという方は一定数いらっしゃいます。
また、弊社は業者間取引が主ですが、「味が落ちた」「まずくなった」「黄色く炊ける」などのお申し出の大半は水浸時間の不足で、これを直すとほぼ解決します。それほどまでに水浸時間というのは大事な物です。
ではなぜそんなに大事なのでしょうか。
そもそも、炊飯というのは「煮る」「蒸す」「焼く」の複合加熱によって構成されます。
まず、釜内の水温を沸騰温度にし、水蒸気を激しく発生させ、対流を起こします。この対流を起こす行為が「煮る」行為です。
次にこの対流によって生じた水蒸気の穴を利用して「蒸し」ます。ご飯粒の膨潤を促進する空間の役目を果たします。
その後水がなくなっていき、ご飯粒の表面に残っている水滴(遊離水)を蒸散させます。これが「焼く」行為です。
浸水は米全体の熱伝導率を向上させるための作業です。これを怠ると生米の膨潤が不足して、釜内の米粒同士の隙間が広がらず、対流が起きません。対流が起きないので水蒸気の穴が出来にくくなります。つまり、「煮る」と「蒸す」に失敗することとなり、「焼く」の比重が高くなります。したがって、外も硬く内も硬く、膨張していないので「黄色く見える」ということになります。これは風船が膨らむと色が白くなっていくのと同じ理論です。膨らんでいないので色が濃いままなのです。また対流が起きていないので硬い部分と柔らかい部分が出来たりします。
炊飯は米と水と熱の化学反応により行われるものなので、米が水を吸収していないと納得いく結果にならないことが多いです。
ちなみに、米の水分吸水量は1時間をピークにその後ほぼ増えません。これは弊社と学習院女子大学との共同研究においても同じ結果でした。よく浸水は30分という表記も見ますが、実験の数値を見る限りでは、30分では吸水は完了しません。従って、米に最大の水を吸収させるには、1時間が必要と言えると思います。これはまばゆきひめだけでなくほぼ全ての米に共通の時間で、「炊飯には1時間の吸水」という事項はマニュアルとしてもよい項目であると思います。
あと、ザル上げという作業がありますが、私の考えとしては不要と思います。せっかく吸水させた米を乾燥させる意義が感じられないのと、膨潤させた米を乾燥させると組織が縮むのと同時にヒビが入り、炊飯したときにそこからでんぷんが流出し、形が崩れたごはんとなる可能性が高いからです。ですので弊社と致しましては、よほど合理的な理由が無い限りはザル上げはご遠慮いただいております。つまり、”一回水に浸けたら炊飯するまで水から出さない”、です。
また、浸水時間はごはんの出来上がり量も左右します。実験の結果、全くの無浸水で炊飯した場合、生米は約1.8倍のごはんとなりますが、1時間浸水後に炊飯すると約2.2倍へ増えます。同じ量の生米を使用するのに、出来上がり量は減ってしまうのですから、浸水を省くというのは大変もったいないことであると思います。
ただ、これが最適解なのか、と聞かれると、本当に白飯のお好みは人により(子供の頃食べてきたごはんにより)千差万別で、硬いごはんが好きという方もいらっしゃれば、ベチャごはんが好きだという方もいらっしゃり、一概に言えない部分がもどかしいところではありますが、上記のことをご理解頂きながら、加水量を調節してみたり(「焼く」の部分を調節する)、自分の中の最適な炊飯方法を探してみるというのも、ごはんを美味しく食べて頂くためのある種楽しみと言えるのではないかなと思います。最後はお客様頼みになってしまって申し訳ないのですが…ただ、浸水時間を1時間取って頂くと納得してくださるお客様が多いので、今回はご紹介させて頂きました。決して各個人方々の好みを批判する意図はありませんので、悪しからず。
最近では浸水時間も勝手に加味してくれる炊飯器があったりして、炊飯は複雑さが増してきておりますが、ぜひ炊飯の理論をご理解頂きながら楽しい自分だけの白飯ライフを営んで頂きたいと思います。